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写真家 / 学芸員 加瀬 息吹 さん

写真家 / 学芸員 加瀬 息吹 さん

写真家・学芸員の加瀬息吹さんは、北九州市小倉北区で生まれ育ちます。幼少期から母親の仕事の関係でジャマイカを訪れ、現地の音楽や文化に触れて生活をしてきたといいます。言葉の通じない土地で、加瀬さんがとったコミュニケーションの手段はカメラ。以後、ジャマイカや小倉のまちで写真を撮り続け、数多くの賞を受賞。そんな加瀬さんが撮る小倉の写真からは、このまちの魅力がたっぷりと伝わってきます。

ここにしかない風景と人たち。愛おしいホームタウンの姿を伝えたい。

ー北九州市小倉北区で生まれた加瀬さんですが、これまでの経歴を教えてください。

1998年に小倉に生まれました。私が育った場所は、いわゆる小倉の裏通りで、歓楽街や角打ちなどディープな文化が根付いているところ。愛するストリートカルチャーのなかで過ごしました。母親が音楽関係の仕事をしていて、幼少期からジャマイカへ連れられて行っていました。現地では、忙しい母に代わってジャマイカ人の知り合いが面倒を見てくれていました。言葉も通じませんが、なぜだか居心地が良くて、10歳くらいまで自分のことをジャマイカ人と思っていたほどです。
とにかくたくさんのアーティストや音楽、カルチャーに触れて育ちました。その後、九州産業大学芸術学部を卒業して、「Studio CASE」をオープン。写真家、学芸員として活動しています。

ーカメラを持ち始めたのはいつ頃からですか?

3歳くらいのときには、もうカメラを持っていたそうです。高校生になると、それまでは母に連れられて行っていたジャマイカに撮影へ行くようになりました。ときには危険な場所にも足を運び、銃を向けられたことだってあるんですよ。あのときは怖かったなあ。
それでも、私は写真を撮ることをコミュニケーションのひとつだと思っています。「あなたを撮りたい」という想いを伝えて、それが相手に伝わって、笑顔になる瞬間がある。そこを写真におさめる。その瞬間に夢中になるのは、小倉にいても世界のどこにいてもこれからもきっと変わりません。

ーご自身の写真集「ウラコクラ」について教えてください。

コロナ禍で、海外へ行けなくなりました。そのときから、本格的に自分が生まれ育ったまちを撮影し始めました。私は「まちの本当の姿は裏通りにある」と信じているので、ファインダーの向こうにいるのは、朝から角打ちでグラスを傾けるおじさんや歓楽街を通学路にする子どもなど、この場所でしか会えない人たちの生きる姿です。
すると、小倉の裏通りで撮りためた写真たちが「第3回写真出版賞ドキュメンタリー部門」で優秀賞を受賞しました。さらに、嬉しいことに東京の出版社から写真集出版の話がきたんです。そうして出版したのが「ウラコクラ」。日本だけでなく、中国でも販売されています。

ー「ウラコクラ」を見た人たちの感想は耳に入ってきますか?

地元の人たちからは「よく撮ってくれた!ありがとう!」と嬉しい声があがりました。私の写真を通じて、初めて小倉のまちを見た沖縄在住のアメリカ人は「君の撮った世界が見たい」と言って実際にこのまちへ来てくれました。写真で人の心を大きく動かせたことに感激しました。その他、コロナ禍で故郷に帰れない人たちにとってはノスタルジックな気持ちに、また、若い人たちにとっては新しくて新鮮なまちに映っているようです。

ー小倉とジャマイカで似ているところや共通点はありますか?

私がよく行っていた頃のジャマイカは、今よりもっと政治的に不安定でした。そんなネガティブな状況でもポジティブに生きるジャマイカ人の姿から学ぶことはたくさんありました。
人や出来事を否定せずに肯定的に受け入れてくれるという意味では小倉と似ているかもしれませんね。そこにおせっかいが加わって、あたたかい人情を感じる。そんな空気感は共通していると思います。

ー2022年にオープンした「Studio CASE」についても教えてください。

この場所は、北九州市の事業「シャッターヒラクプロジェクト」を活用してオープンしたアートギャラリーを併設したフォトスタジオです。私は、写真家でありながら学芸員としても活動しています。なので、アーティストの世界観を壊さないようにギャラリーの壁には鉄板を埋めて、写真を磁石で美しく展示できるようにこだわりました。鉄板を用いる工事はかなり高額になりましたが、北九州市から補助金が出たので、とても助かりました。この場所を市外、県外、海外から目指して訪れたくなるスポットにしたいと考えています。

ー今後の目標を教えてください。

2023年にはアメリカとジャマイカで写真展を開催する予定です。これからもあくまで拠点は小倉に置いて、海外でも活動していきたいと考えています。学芸員としては、この場所で撮影したい、この場所で展示したいと思ってもらえるように発信していきたいです。そして、写真家としては愛おしいホームタウンの姿を写真で残していきたいですね。

写真家 / 学芸員

加瀬 息吹

北九州市小倉北区生まれ。幼い頃より、母親の仕事の関係でジャマイカを頻繁に訪れる。現地では、言葉の通じないジャマイカ人と過ごし、多くの音楽やカルチャーに触れる。その頃から手にしていたカメラでは、多くの人たちを写真に収める。ライフワークとして撮り続けた小倉の路地裏の人々や風景が多くの評価を受け、写真集「ウラコクラ」を出版。2022年には小倉北区京町にて、ギャラリーを併設したフォトスタジオを開設した。